中国×日本 比較文化シリーズ【第9回】教育と選抜:「高考」と「大学入学共通テスト」の向こうにあるもの
大家好、みなさん、こんにちは!
今回は、社会の未来を映し出す「教育」と、若者の歩みを方向づける「選抜」のシステムについて、中国と日本を比べてみたいと思います。

高考:その重みと変容
中国で「高考(ガオカオ)」と呼ばれる「普通高等学校招生全国統一考試」は、毎年6月に実施される、大学入学選抜のための統一学力試験です。その社会的注目度は非常に高く、以下のような光景が見られます。
受験者数は毎年1000万人以上にのぼり、 試験期間中は、試験会場周辺で交通規制や騒音防止のための配慮(工事中止、クラクション自粛等)が行われます。また、 保護者が会場外で長い時間待ち続ける姿は、一種の社会的風物詩となっています。
「一考定终身(一つの試験が一生を決める)」という言葉が象徴するように、この試験の結果が進学先を左右し、将来の進路に大きな影響を与えると考える人は少なくありません。しかし近年では、「一発勝負」という側面は変化しつつあります。
日本の「大学入学共通テスト」との比較:選抜の多様性
日本の大学入試の中心となる「大学入学共通テスト」と、中国の高考は、根本的な理念と構造が異なります。
日本のシステムの特徴:
- 共通テストと、各大学が実施する個別試験(二次試験)を組み合わせる複合選抜が主流。
- 総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜など、学力試験以外の要素も評価に加える多様な入学選抜方法が確立されている。
- 国立・公立・私立と多くの大学があり、受験機会も複数設定されていることが多い。
中国のシステムの特徴:
- 高考の点数が合否判定の最も重要な基準。ただし、一部の大学・学部では「綜合素質評価」など点数以外の要素も参考にされるようになった。
- 受験生は、居住する省(行政区画)に割り当てられた大学募集枠の中で志望校を選択する。この募集枠や試験問題の難易度には地域間の格差が存在し、大きな議論の的となっている。
- 高考の結果が不本意でも、再受験(浪人)して挑戦する道は開かれている。
つまり、日本は「多段階・多様型」、中国は「統一試験中心だが変容途中」 という違いが、受験生とその家族が感じるプレッシャーの質と量を分ける一因となっています。
過熱する教育環境:「鸡娃」と「内巻」
中国都市部では、子どもに過度な教育投資とスケジュールを課す養育スタイルを指す「鸡娃(ジーワー)」という言葉が生まれました。その背景には「内巻(ネイジュアン)」、つまり限られたパイを巡る過当競争社会の現実があります。
幼少期から英語や芸術、プログラミングなど多様な習い事を掛け持ちする子どもが珍しくありません。 学校の宿題に加え、学習塾の課題に追われる生活から、「睡眠時間の確保」自体が課題になることもあります。保護者間では「別人家的孩子(よその家の優秀な子ども)」との比較から生じる焦りが強い傾向があります。
日本でも、特に都市部では中学受験などを目指した早期教育や塾通いが盛んですが、社会全体が一つの試験結果に集中する中国のような「総力戦」的な構図とは異なっていると言えます。
「学区房」:教育と不動産が交差する点
中国社会に特徴的な現象が「学区房(シュエチューファン)」です。これは、優れた公立小学校・中学校の「学区内」にある住宅物件を指し、その居住権が子どもの入学資格に直結するため、通常よりはるかに高額で取引されます。これは、公立学校間の教育資源(予算、教師の質等)に格差があることから生まれた現象です。
日本にも公立学校の学区制度はありますが、私立学校や国立大学附属学校など学区に縛られない選択肢が比較的多く、中国のような極端な形での「学区房」バブルは見られません。
政策の模索:「双減政策」とその波紋
教育競争の過熱化や家庭の経済的負担増を受け、中国政府は2021年、「双減政策」(宿題負担と校外学習負担の軽減)を打ち出しました。具体的には、義務教育段階の学生を対象に、学校の宿題量を減らし、営利目的の学習塾の規制を強化しました。
この政策は教育市場に大きな変化をもたらしましたが、一方で、個別指導や「家庭教師」、オンライン講座など、新たな形態による学習支援需要が生まれ、根本的な受験競争の構造が変わったとは言い難い面もあります。
日本も過去、「ゆとり教育」から「脱ゆとり」へと教育政策が揺れ動き、学力向上と子どもの多様な成長のバランスをどう取るか、試行錯誤が続いています。
教育熱の根源にあるもの
中国の背景:
人口が多く、高度経済成長期を経て学歴が職業と収入に強く結びついてきた歴史的経緯があり、教育は、社会の中で自身の地位を向上させる(「階層上昇」)ための最も公平で重要なルートと長らく信じられてきました。
日本の背景:
終身雇用・年功序列を前提とした「学歴社会」の名残があります。また少子化が進み、一人の子どもに対する保護者の教育投資額と期待が相対的に集中しやすい環境があります。「個性」や「多様な生き方」を重視する価値観が広がる中で、従来型の「良い学校→良い企業」という単線的な成功モデルへの疑問も生まれています。
どちらの社会も、次世代を思う家族の愛情と期待が原動力であることに変わりはありません。しかし、その期待が、どのような社会システムや競争環境を通じて具体化されるかが、両国で大きく異なっているのです。
ことばから社会を理解する
教育に関する中国語の語彙は、現代中国の社会課題や人々の意識を理解する重要な手がかりです。
今日のキーワード:
- 高考 (gāokǎo):大学入学統一試験。中国社会の年間行事の一つ。
- 鸡娃 (jīwá):過度な教育投資で子どもを「追い立てる」養育スタイル。
- 内卷 (nèijuǎn):過当競争。成長が頭打ちになった中で、より多くの努力を強いられる状態。
- 双减 (shuāngjiǎn):「宿題」と「学習塾」の負担軽減を目指す政策。
- 素质教育 (sùzhì jiàoyù):テストの点数だけではない、総合的な資質・能力を育む教育理念。
まとめ:多様な「学び」と「成功」を求めて
中国の高考と日本の大学入試は、どちらも若者の人生の重要な通過点です。しかし、中国が「一点集中型」の選抜圧力に直面しつつも変革を模索する一方、日本は以前から「多段階・多様化」の道を歩み、そのメリットとデメリットの両方と向き合ってきました。
重要なのは、いずれの社会でも、画一的な「成功」の尺度だけで子どもや若者を評価するのではなく、一人ひとりが自分の学びと成長の物語を紡げるような環境が、ますます求められているという点です。教育制度の比較は、単にどちらが厳しいかではなく、それぞれの社会が未来の世代に何を託そうとしているのかを考えるきっかけになるでしょう。
【今日の応援フレーズ】
- 加油!(jiāyóu!):頑張れ! (高考だけでなく、あらゆる挑戦に使える)
- 祝你成功!(zhù nǐ chénggōng!):あなたの成功を祈る!
次回は、「SNSとネット文化」をテーマに、WeChatとLINEに代表されるデジタルコミュニケーションの世界の違いと共通点を探ります。