中国×日本 比較文化シリーズ【第8回】仕事観とキャリア意識:「鉄飯碗」と「終身雇用」の変容
大家好、みなさん、こんにちは!
今回は仕事に対する考え方とキャリア形成について、中国と日本を比較しながら深掘りします。
働き方や仕事への向き合い方は、その国の経済発展の歴史、社会構造、そして現在直面している課題を如実に反映しています。

「鉄飯碗」という安定志向とその現代的な変容
中国において「良い仕事」の代名詞である「鉄飯碗(ティエファンワン)」は、文字通り「鉄の茶碗」、つまり壊れない安定した職業を意味します。その代表格は以下の通りです:
- 公務員(最上位の人気職種)
- 国有企業の正社員
- 教師・医師・銀行員などの専門職
特に公務員は、安定性、社会的信用、手厚い福利厚生から、親世代が子女に最も就かせたい職業です。
毎年行われる「公務員試験(国考)」には数百万人が殺到し、数十倍から数百倍という驚異的な競争率が常態化しています。
この志向の背景には、計画経済時代の「単位(ダンウェイ)」制度の記憶があります。かつて国有企業や公営機関に所属すれば、終身雇用に加え、住宅、医療、子育てから退職後の面倒まで組織が保障するという生活様式が根付いていました。その「安定の幻想」は市場経済化が進んだ現在でも、特に地方や親世代の価値観に強く残っています。
ただし、現代では「鉄飯碗」の内実も変化しています。 公務員や国有企業でも成果主義の導入が進み、完全な「安定神話」は過去のものとなりつつあります。また、一部の大手民間企業(特にテック系優良企業)での高待遇ポジションが、新時代の「鉄飯碗」と見なされる傾向も出てきています。
日本の「終身雇用」から「キャリア自律」への過渡期
日本にも長期にわたって社会規範となっていた「終身雇用」と「年功序列」のシステムがありました。新卒で一つの企業に入社し、定年まで勤め上げ、年齢と共に地位と給与が上がっていくというモデルは、戦後日本の経済成長を支えました。
しかし、1990年代のバブル崩壊後、このシステムは大きな転換点を迎えました。リストラ(人員削減)の発生、非正規雇用の拡大、そして転職の一般化です。特に若年層は、一つの企業にすべてを依存することのリスクを認識し、自らのスキルやキャリアを自分で管理する「キャリア自律」の意識が強まっています。
とはいえ、価値観の変化は緩やかです。 大企業や公務員への安定志向は依然として根強く、「新卒一括採用」という形式も健在です。多くの学生にとって、就職活動の第一目標は「知名度の高い大企業」であることに変わりはありません。日本の雇用システムは、伝統的な「終身雇用」モデルと、多様で流動的な新しい働き方の過渡期にあると言えるでしょう。
対照的な転職観:「積極的な跳槽」と「拡大する転職市場」
中国の「跳槽(ティアオツァオ)」 は、もとは「ウマが空からになったかいば桶を飛び越えて他のウマのかいば桶に行くこと」で、つまり積極的な転職を指します。特に経済成長が著しい都市部や、IT、金融、ハイテクなどの業界では、キャリアアップの最も有効な手段として定着しています。
「2〜3年で転職するのがキャリアのデフォルト」 と考える若年層も多く、給与が30〜50%アップすることを期待しての転職は珍しくありません。この背景には、「会社への忠誠よりも、自己の市場価値(個人のスキルと経験の価値)の最大化を優先する」 という実利主義的な考え方があります。企業側も、即戦力となる人材を中途採用で積極的に確保する傾向が強く、この流動性を後押ししています。
日本では、長らく転職に「落ち着きがない」「忍耐力に欠ける」といったネガティブなイメージが付きまとってきました。 しかし、状況は確実に変化しています。少子高齢化による人手不足、働き方に対する価値観の多様化、そして専門職需要の高まりを背景に、転職市場はかつてなく活発化しています。転職サイトやエージェントサービスの充実もこれを後押ししており、特にデジタル人材を中心に、キャリアチェンジは一般的な選択肢となりつつあります。とはいえ、転職回数が多すぎると逆に不信感を抱かれるという、中国との微妙な温度差は残っています。
過酷な競争社会とその反動:中国の「内卷」・「躺平」と日本の「働き方改革」
中国における「996(ジュウジュウリウ)働き方」 は、朝9時から夜9時まで、週6日働くという、特にIT業界で蔓延した過酷な労働慣行です。これは「奋斗(フェンドウ)」という、努力と自己犠牲を美徳とする文化と結びついていました。
しかし、このような激しい競争環境がもたらす弊害として、「内卷(ネイジュアン)」 という概念が広まりました。これは、限られたパイを奪い合うために過度な努力を強いられ、社会全体としては進歩がない「消耗戦」「過当競争」の状態を指します。さらに、この競争からの完全な撤退を意味する 「躺平(タンピン)」 というライフスタイルを選ぶ若者も現れ、社会現象となりました。ただし、「躺平」はあくまで一部の層の対抗文化であり、大多数の若者は依然として高い上昇志向を持って競争環境に身を置いていることに留意が必要です。
日本の「過労死(KAROSHI)」 は国際語となり、長時間労働とその悲惨な結果を世界に知らしめました。「会社のために」という集団主義的な価値観と、「残業は美徳」という風土が長く続いてきました。
こうした反省から、日本では「働き方改革」が国家的な課題として推進されています。残業時間の法的規制、年次有給休暇の取得義務化、テレワークやフレックスタイムの導入など、多様で柔軟な働き方を実現するための制度整備が進められています。特にコロナ禍は、働く場所や時間の見直しを加速させました。しかし、「形だけの改革」に留まり、現場の意識や風土が変わらないという課題も多く、改革は道半ばというのが実情です。
起業家精神の社会的な位置づけ
中国:「大衆起業」という国家戦略
中国では、「創業(チュァンイエ)」 は国家が推奨するライフコースの一つです。「大衆創業、万衆創新」 というスローガンのもと、起業は経済成長とイノベーションの原動力として位置づけられています。成功した起業家は社会的英雄として称えられ、若者の強い憧れの的です。巨大な国内市場、活発なベンチャーキャピタル、そして失敗への比較的寛容な態度(何度でも挑戦できるという風土)が、起業ブームを下支えしています。
日本:「安定」から「挑戦」へのゆるやかな転換
日本社会では長年、「起業=リスクが高く、不安定な選択」 という認識が支配的でした。大企業への就職こそが「勝ち組」への確実なルートと見なされ、起業家精神は軽視されがちでした。失敗に対する社会的烙印(スティグマ)も強く、再挑戦が難しい環境にありました。
しかし、この状況も変わりつつあります。 スタートアップへの投資が増加し、政府も起業支援策を強化しています。特にデジタルネイティブの若い世代を中心に、大組織に縛られない働き方(フリーランス、独立など)への関心が高まり、「挑戦」そのものに価値を見出す風潮が生まれています。とはいえ、起業が「普通の選択肢」となるまでには、まだ時間がかかりそうです。
言語学習のヒント
これらの社会現象を理解する上で、キーワードとなる中国語を学びましょう。
中国語の仕事・キャリア関連表現:
- 铁饭碗 (tiěfànwǎn) - 安定した職業(文字通り:鉄の茶碗)
- 跳槽 (tiàocáo) - 転職する(文字通り:飼い葉桶を飛び越える)
- 996 (jiǔ jiǔ liù) - 朝9時〜夜9時、週6日勤務の過酷労働
- 内卷 (nèijuǎn) - 過当競争、非生産的な消耗戦
- 躺平 (tǎngpíng) - 競争から降りて最低限の生活を送る
- 加班 (jiābān) - 残業する
- 创业 (chuàngyè) - 起業する
- 职场 (zhíchǎng) - 職場
- 35岁危机 (sānshíwǔ suì wēijī) - 35歳危機(IT業界等で言われる中年のキャリア危機)
- 考公 (kǎo gōng) - 公務員試験を受ける
まとめ:成長社会と成熟社会が生み出す異なるキャリア戦略
両国の仕事観の違いは、「高度成長を経験し、依然として流動性の高い中国」と、「成熟段階に入り、変革を模索する日本」という、異なる発展段階に立つ社会の反映と言えます。
中国では、機会が多く変化も速い環境下で、「自らの市場価値を高め、機敏にチャンスを掴む」ことが合理的なキャリア戦略となります。一方、日本では、長期に培われた組織の知識や技能(暗黙知)が重視される環境も残りつつ、「安定性と個人の生活の質(QOL)を両立させる」新しい働き方を求める動きが強まっています。
重要なのは、どちらが優れているかを判断することではなく、それぞれの背景を理解することです。 中国の機動性と起業家精神、日本の持続性と匠の精神。グローバル化が進む現代、これらの異なる価値観と実践を知り、自身のキャリアを構築する上での選択肢を広げることが、これからの時代を生きる上で大きな財産となるでしょう。
【今日の中国語フレーズ】
- 我在考虑跳槽。 (Wǒ zài kǎolǜ tiàocáo.) - 転職を考えています。
- 工作与生活的平衡很重要。 (Gōngzuò yǔ shēnghuó de pínghéng hěn zhòngyào.) - ワークライフバランスは重要です。
- 我希望能尝试创业。 (Wǒ xīwàng néng chángshì chuàngyè.) - 起業に挑戦してみたいです。